年頭ご挨拶


一般社団法人セメント協会 会長
不死原 正文

  このたびの能登半島地震で犠牲になられた方々に哀悼の意を表しますとともに、被災された方々の日常が一日でも早く戻りますよう、心よりお祈り申し上げます。

  2024年の年頭に当たり、一言ご挨拶を申し上げます。
  皆様には私たちセメント業界に対し、日頃より多大なるご支援・ご協力を賜り、まずもって心より厚くお礼申し上げます。

  さて、我が国でセメント産業が始まって150年を迎えた昨年、私は、多くの困難が改善の方向に転じ、セメントのみならず各分野で明るさが増すことへの期待を申し上げました。しかし、実際に新型コロナが社会的に問題となってから4年余りが過ぎて世界的に落ち着きを見せつつあり、経済全体も回復基調とされるものの、ロシアのウクライナへの侵攻による資源価格の高騰やコロナに端を発した人手不足などの影響で当業界を取り巻く環境はむしろより一層厳しいものとなりました。結果として23年度のセメントの国内需要は、当初の見通し3800万トンの達成が大変厳しい状況になっております。本年も従前にも増して気を引き締め、更なる改革を継続しなければならないと痛感しているところであります。

  セメント各社にとって経営面で厳しい状況が続く中であっても、私たちセメント業界は安全・品質管理を徹底しながら生産基盤を維持し、インフラ構造物の整備・更新、国土の強靭化に不可欠な基礎素材であるセメントを安定供給していく責務があります。

  次に新たなる年を迎えるにあたり、セメント業界が取り組むいくつかの課題を申しあげます。

  まず、2050年カーボンニュートラル実現に向けた取り組みです。昨年も強調いたしましたが、セメント業界は経団連が提唱する環境自主行動計画や低炭素社会実行計画に当初より参画し、これまでも順次目標を達成して参りました。

  しかしセメント産業は生産プロセスの構造上、他産業に比べてカーボンニュートラルの実現は困難を伴います。引き続き2022年3月の「長期ビジョン」に沿って省エネルギーの推進、燃料転換や廃棄物の利用拡大、さらにCO₂の回収、再生利用などをこれまで以上に強力に取り組んでいく所存です。また、国際的にはいわゆるグリーン製品にシフトする動きも定着しつつあり、目標の達成には長期間にわたる取組みと数多くの困難を伴うことから、改めてグリーンイノベーション基金をはじめとした国からのご支援ご協力をお願い申し上げます。

  カーボンニュートラルの実現は業界の存続に関わるとの強い認識をもって、業界内外の英知を結集し万全の対応を進めて参ります。

  またセメント業界では廃棄物・副産物や都市ゴミなどを受け入れて原料や熱エネルギーの代替として利用し、ほとんど2次廃棄物を出しておりません。昨年度は一時的に受け入れ量が減りましたが、なお日本の廃棄物総量の5%、循環利用量の11%に当たる2487万トンに達しました。セメント1トンあたりの使用量は実に485キロになります。更に、近年多発する地震や豪雨災害で発生した災害廃棄物の受入れに備え、各自治体と協定を結ぶなど、今後も循環型社会の実現に貢献していく所存です。

  災害廃棄物処理に関しましては、このたびの能登半島地震で被災された地域の復興支援に、セメント業界を挙げて全力で取り組んで参ります。

  一方、内需が長期的に減少傾向にある中、新しい需要開拓への取り組みも大変重要な課題であり、その柱であるコンクリート舗装の普及にこれまで以上に注力して参ります。

  コンクリート舗装は耐久性が高くライフサイクルコストの面で優位であり、長い目で見て人手不足対策にもなるほか、コンクリートがCO₂を長期にわたって固定化することや、大型車の燃費向上に効果的であることから、脱炭素にも有効であると認識されるようになりました。一昨年度に「コンクリート舗装の普及推進のための3か年行動計画」をスタートさせ、国や地方自治体やNEXCO等の関係先に対し、普及に向けての活動を行って参りましたが、今年はその最終年度となり、その成果が求められます。各社のトップの皆様自らが先頭に立ってこれまで以上の働きかけを行う必要があります。また、徐々に実績を挙げている1DAY PAVEの普及拡大につきましても同様であります。

  もう一つ需要拡大への取組として、需要の伸びているセメント系固化材の普及も挙げられます。固化材は近年、地震の際の液状化や洪水被害に対する防災・減災にも盛んに使用されるようになってきておりますが、例えば河川堤防の補強への使用について大学との共同研究を進めるなど、目前に迫るとされる大規模災害への抵抗力を向上させ、国土強靭化対策の一助として大いに貢献して参りたいと考えております。

  一方でセメント業界は、申し上げましたように循環型社会の形成に大きな役割を果たし、極めて社会貢献度が高い産業であると自負しておりますが、一般の方々への幅広い浸透は未だ十分ではないと思います。そのためマスメディアを通じた広報活動や、工場見学会などの現場の取組みに加え、これからの時代を担う若い世代が前向きなイメージを抱くよう、時流に即した新たな工夫なども取り入れ、より広い視野で継続的に広報活動を展開して参ります。

  以上のように業界を挙げて取り組む課題を申し述べて参りましたが、内外の困難な現状を打開し将来への展望を描くため、業界内の関係者の尽力もさることながら、国や行政、サプライチェーンを含めた関係先の皆様の幅広いご理解とご協力がこれまで以上に必要となります。

  今年の干支は辰年、運気が勢いよく昇るそのイメージ通り、セメント業界にとってもここ数年続いた低迷と数々の制約がひとつひとつ改善に向かう年となり、マイナスの流れを反転させ、定着する年としなければならないと念じております。皆様におかれましてもセメント業界に対してこれまで以上のご理解とご支援を賜りますようお願い申し上げます。

  本年が皆様にとって良い年でありますよう心よりお祈り申し上げ、私の新年の挨拶とさせていただきます。

以上