年頭ご挨拶


一般社団法人セメント協会 会長
諸橋 央典

  皆様新年あけましておめでとうございます。
  2025年の年頭に当たり、一言ご挨拶を申し上げます。

  昨年を振り返りますと、元日の能登半島地震の発生は、まだ記憶に新しいところです。家屋の倒壊、火災の発生などにより被害を受けられた皆様方に対し、改めて心からお見舞い申し上げます。この地震により、地盤の隆起や液状化が広範囲に発生し、道路の寸断、港湾の損傷などインフラも大きな被害を受けました。私も被災地を訪問する機会があり、被災した現場で、コンクリートを使った橋梁や道路が損傷することなく、しっかり機能しているのを見て、コンクリートが自然災害に強いことを改めて実感しました。また、今後、被災者の方々が以前の生活を取り戻していただく上でも、災害復旧復興に果たすコンクリート、すなわちセメント産業の果たすべき役割は大きいものと考えております。

  その一方で、セメント産業は、たいへん厳しい状況にあります。2024年度のセメント国内需要は3500万トンと見通しておりましたが、その達成は大変難しいところです。国内需要は、昨年度まで5年連続で前年度実績を下回り、ピークであった1990年度の4割にまで落ち込んでいます。公共投資の減少が主因でありますが、足元では資材や労務費の高騰に加え、いわゆる2024年問題による労働環境の変化も大きな減少要因となっています。一方で、G7のような主要国で公共投資が減っているのはわが国だけと言われており、国土を強靭化し国民の安心安全を確保する上で、公共投資の着実な実施は不可欠です。南海トラフ地震など発生が懸念される自然災害への備えを固め、また、高度経済成長期に整備され老朽化したインフラの再整備を進めるため、政府には公共投資の更なる充実を希望するものであり、昨年11月には中野洋昌(なかのひろまさ)国土交通大臣に対し私自身が直接お願いして参りました。

  ところが、セメントの国内需要が低迷し生産量が減少する中、セメント産業における廃棄物処理量も減少しております。我が国全体の廃棄物処理の観点からも、 一定のセメント生産の維持は不可欠です。このため、協会を挙げて新規需要の開拓に取り組んでおり、特にコンクリート舗装の利用拡大を図るため様々な普及活動を行っております。コンクリート舗装は、耐久性が高く長期間供用できるうえ、大型車の燃費の改善を通じて低炭素社会に貢献できるなど、多くの社会的メリットを有しています。国土交通省の道路局や地方整備局への働きかけに加え、特に都道府県道での普及が進んでいないことから、本年度は県道の整備を預かる県知事に直接訴える、トップセールスを実施しているところです。また、能登半島地震においても、セメント系固化材による地盤改良が液状化の防止に有効であったことも踏まえ、その利用の拡大に積極的に取り組んでまいります。

  これからもセメント産業が、わが国の中核産業として存在していく上では、カーボンニュートラルの実現が不可欠です。セメント産業では、他産業に先駆けて省 エネに取り組んでまいりましたが、セメント生産プロセスの構造上、二酸化炭素の排出は不可避であり、他産業に比べカーボンニュートラルの実現は極めて困難な課題です。私どもは、国内需要の減小というたいへん厳しい状況にあっても、カーボンニュートラルの実現に向け、これまで以上に技術開発に取り組んでまいります。

  一方で、画期的な技術開発を行い、大規模投資を行って既存の設備を改修し、さらに中長期的には大量の二酸化炭素を回収し地下に固定化していくには莫大な費用が発生します。これらの莫大な費用は、セメント産業だけで負担できるものではなく、国民の皆様方にご理解をいただき、社会全体で負担すべきものと考えます。

  しかしながら、セメント産業の実相は、あまり世に知られているわけではないのが実情です。セメント協会では、幹部と各界著名人との対談記事を週刊新潮に毎年掲載いただいており、昨年は私も漫画家の弘兼憲史先生と対談いたしました。対談のお相手の著名人の方々に、わが国の廃棄物処理体系に占めるセメント産業の位置づけをご説明いたしますと、皆さん一様にたいへん驚かれるところです。協会としては、これまでも、マスメディアを通じた広報活動、工場見学会等を行ってまいりましたが、これからの時代を担う若い世代を始め、一般の方々が私どもの産業にご理解をいただき、良いイメージを持っていただけるよう、時流に即した広報活動にも注力してまいります。

  今年は巳年、脱皮を繰り返して成長するへびのように、古い皮を脱ぎ捨て、新しい時代を切り拓けるよう、協会一丸となって努力してまいります。皆様におかれましては、これまで以上にご理解とご支援を賜わりたくお願い申し上げます。

  本年が皆様にとって良い年になるようお祈り申し上げ、新年の挨拶とさせていただきます。

以上