歴史と文化を紡ぎ、生活に潤い呼ぶ

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真宗大谷派函館別院(北海道函館市)

我が国初のRC造寺社建築として1915(大正4)年に竣工。風格溢れる大瓦屋根は函館山や五稜郭周辺からもはっきりと見取ることができる。港町・函館の歴史をひも解く時、よみがえる津軽海峡から吹きつける強風がもたらした大火の悲惨な記憶。これを克服するため、まだまだコンクリートへの知識が浸透していない大正初期にあって寺のコンクリート化を設計・指揮したのが、明治期最大の木造寺院建築、京都・東本願寺御影堂を手がけた9代目伊藤平左衛門。施工は10代目平左衛門と市内・元町カトリック教会建設で腕を磨いた木田保造の3人があたった。当時、コンクリートなどと言う訳の判らない代物が本堂の躯体に使われることへの恐れ、嫌悪、反発が檀家周辺に渦巻いた。この誤解をほぐしコンクリートの丈夫さ、優れた耐火性を関係者に納得させ、完成にこぎつけるまでの彼らの苦難と知恵が偲ばれる。大正から平成に至る約100年の歳月を経て、寺は当時の技術者の熱意と信念を実証、坂道を駆け上がる海風を感じながら街の安全な暮らしを祈り続けている(2007年、重要文化財指定)。

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