循環型社会構築に向けた取り組み

廃棄物・副産物の有効利用

 資源の効率的利用としての廃棄物の利用

  セメント産業は「資源の効率的利用」に努める中、早くから可燃性廃棄物をセメント製造におけるクリンカ焼成用の熱エネルギーの代替として有効利用してきました。
例えば、廃タイヤですが、タイヤはそのほとんどが可燃性のゴムであり、化石系のエネルギーに代わる熱エネルギーとして利用できます。 一方、タイヤにはワイヤとして数パーセントのスチールが含まれていることが知られています。このスチールは単純に焼却した場合には残さとして残りますが、セメントの中間製品であるクリンカの製造に用いた場合、鉄分としてクリンカに取り込まれるため残さが出ないことになります。
  このように、クリンカの製造に廃棄物を利用すると、クリンカに含まれる成分と同じものはクリンカに取り込まれ、二次的に廃棄物を出さないことになります。そして、この原理を基に、各種の廃棄物・副産物についてクリンカの原料として利用する技術を開発し、廃棄物の受け入れ量を増やしてまいりました。
  クリンカは酸化カルシウム、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化鉄が主な成分であり、それらを含む原料を調合し、1450℃もの高温で焼成して製造するため、各原料は焼成過程で分解されるので元の組成に係らず、これらの成分をある程度含む物質は、天然原料の代替として使うことが可能となります。
  例えば、天然の粘土といくつかの廃棄物の組成を比較しますと類似しているのが分かり、これらを粘土の代替として利用できることが分かります。

由来 品目 成分
酸化カルシウム
(CaO)  
二酸化けい素
(SiO2)  
酸化アルミニウム
(Al2O3)  
酸化鉄
(Fe2O3)  
天然原料 粘土 〜 5% 40〜80% 10〜30% 3〜10%
廃棄物 石炭灰 5〜20% 40〜65% 10〜30% 3〜10%
焼却灰 20〜30% 20〜30% 10〜20%   〜10%
下水汚泥 5〜30% 20〜30% 20〜50% 5〜10%

現在では、様々な産業や自治体から排出される廃棄物・副産物をセメント原料、代替エネルギーとして有効に活用しています。

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 有効利用量の推移

  環境省の「令和5年版環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書」によれば、2020年度のデータを見ると、わが国は1年間に約5億1900万tの廃棄物等が発生し、2億1600万tが循環利用されております。
  2020年度、セメント業界は約2490万t※2の廃棄物等をセメント製造に活用しており、その量は循環利用量の約11%に相当することがわかります。

図 我が国における物質フロー(2020年度)

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※1:含水等:廃棄物等の含水等(汚泥、家畜ふん尿、し尿、廃酸、廃アルカリ)及び経済活動に伴う土砂等の随伴投入(鉱業、建設業、上水道業の汚泥及び鉱業の鉱さい)
※2:2020年度のセメント産業の廃棄物・副産物使用量は約2616万tであるが、本物質フローの“廃棄物等”に建設発生土は含まれていないため、その分は除外した。

出所:令和5年版 環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書 p.146

表-1 セメント業界の廃棄物・副産物使用量の推移

(単位:千トン)
種類 主な用途 1990年度 2000年度 2010年度 2017年度 2018年度 2019年度 2020年度 2021年度 2022年度
石炭灰 原料、
混合材
2,031 5,145 6,631 7,750 7,681 7,593 7,286 7,450 6,839
高炉スラグ 原料、
混合材
12,213 12,162 7,408 7,398 7,852 7,430 6,981 6,939 6,519
汚泥、スラッジ 原料 341 1,906 2,627 3,255 3,267 3,091 2,950 2,904 2,864
副産石こう 原料
(添加材)
2,300 2,643 2,037 2,179 2,229 2,091 2,032 2,098 2,000
燃えがら(石炭灰は除く)、  
ばいじん、ダスト
原料 468 734 1,307 1,524 1,530 1,554 1,482 1,471 1,534
建設発生土 原料 - 1,934 1,823 1,531 1,214 1,241 1,159 916
廃プラスチック 熱エネルギー 0 102 445 643 718 746 746 774 784
非鉄鉱滓等 原料 1,559 1,500 682 795 811 740 725 708 612
木くず 熱エネルギー 7 2 574 543 517 450 437 439 388
製鋼スラグ  原料 779 795 400 374 387 441 364 400 379
鋳物砂 原料 169 477 517 446 455 407 336 379 365
再生油 熱エネルギー 51 239 195 209 223 236 282 302 273
廃白土 原料、
熱エネルギー
40 106 238 287 264 260 260 267 272
廃油 熱エネルギー 90 120 275 314 335 322 245 236 256
ガラスくず等 原料 0 151 111 130 152 165 154 151 142
肉骨粉 原料、
熱エネルギー
0 0 68 59 60 63 71 68 80
廃タイヤ 原料、
熱エネルギー
101 323 89 63 70 65 69 71 68
RDF、RPF 熱エネルギー 0 27 48 37 40 46 46 34 39
ボタ 原料、
熱エネルギー
1,600 675 0 0 0 0 0 0 0
その他 14 253 408 502 459 506 447 445 462
合計 21,763 27,359 25,995 28,332 28,583 27,422 26,155 26,294 24,878
セメント生産高 86,849 82,373 55,903 60,202 60,074 57,978 55,894 55,588 51,339
セメント1t当たりの使用量(kg/t)  251 332 465 471 476 473 468 473 485

注1.「建設発生土」は2002年度以降調査を開始。
注2.「汚泥・スラッジ」は下水汚泥を含む。
注3.「ガラスくず等」「RDF,RPF」はその他より独立。
注4.「廃プラスチック」にはシュレッダーダストを含む。
注5.「石炭灰」は電力業界以外の石炭灰を含む。
注6.「セメント生産高」にはその他のセメントを含まない。

図-1 セメント業界の廃棄物・副産物利用状況

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図-2 セメント生産量と廃棄物・副産物使用量・使用原単位の推移

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  セメント業界では、既存のセメント製造設備や焼成技術をベースに、多岐にわたる廃棄物・副産物のリサイクル技術を開発し、20種類以上の廃棄物・副産物を他産業等から年間約25,000千t以上受け入れてリサイクルを可能にしています。これを容積に換算した場合、東京ドームの約16杯分に相当します。

  セメント生産は1996年度の99,267千tをピークに減少傾向を続けていますが、各社の努力により、セメント1t製造するために使用する廃棄物・副産物の量は逆に増加してきました。もし、セメント業界が廃棄物・副産物を全く受け入れなくなると、その多くは最終処分場に集中することとなり、産業廃棄物の最終処分場の残余容量は現状より約13.5年短くなると試算しています。

 産業廃棄物の最終処分場の延命化

  日本は国土が狭く、埋め立て処分する場所も限りがあり、今ある処分場をいかに長く使用するかが重要な課題となっており、次の図に示しますように、最終処分場の新規の立地は全国的に非常に厳しい状況となっています。

図 最終処分場の新規許可件数の推移(産業廃棄物)

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出所:令和5年版 環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書 p.160

  セメント産業が多くの廃棄物や副産物を受け入れることは、限られた処分場を長持ちさせることに貢献しており、セメント協会では、その効果を以下のように試算しています。

(A) 産業廃棄物最終処分場残余容量(2022年4月1日現在)

171,085千m3

(B) 産業廃棄物最終処分場残余年数(2022年4月1日現在) 19,7年
(C) 2022年度以降の産業廃棄物の年間最終処分量試算値C=A/B 8,685千m3
(D) セメント工場が1年間に受入ている廃棄物・副産物等の容積換算試算値(2021年度実績) 18,973千m3
(E) セメント工場が受入処理しなかった場合、最終処分場の残余年数試算値 E=A/(C+D) 6.2年
(F) セメント工場が廃棄物等を受入処理することによる最終処分場の延命効果試算値 F=B-E 13.5年
(A)(B): 環境省発表

 廃棄物・副産物の利用に伴う石灰石使用量削減の効果

  前述の通り、セメント産業は各種廃棄物・副産物をセメント製造の原料やエネルギーの代替として使用しています(表-1参照)。この中で、原料の代替となる廃棄物・副産物は二酸化けい素や酸化アルミニウムを主成分としているものが多いのですが、少なからずの脱炭酸済み酸化カルシウムを含有しているものもあります。セメント製造における酸化カルシウム源は基本的に石灰石に依存しているため、石灰石から脱炭酸による二酸化炭素排出を避けることが困難ですが、この廃棄物・副産物に含まれる脱炭酸が済んだ酸化カルシウムの利用は二酸化炭素排出削減につながるといえます。
  実際に、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)に提出する温室効果ガス排出量の報告である「日本国温室効果ガスインベントリ報告書(NIR)」において、セメント製造の工業プロセスからの排出量はセメント中間製品であるクリンカ1tあたりの排出量を国独自の排出係数として求め、その排出係数を廃棄物由来の脱炭酸が済んでいるCaO、MgOの含有量分補正することが方法論として定められています。

表-2に廃棄物等由来原料の組成を示す。

表-2 廃棄物等由来原料2)の組成

大分類 種類 含水率 CaO 含有率 MgO 含有率
燃え殻(焼却残渣) 石炭灰 7.2〜16.6% 5.0〜5.8% 1.0〜1.1%
下水汚泥焼却灰1) 10.9〜17.8% 7.4〜12.5% 3.5〜3.8%
一般ごみ焼却灰1) 15.6〜24.6% 10.0〜26.5% 2.6〜2.8%
ガラスくず、コンクリートくず及び陶磁器くず ガラスくず・陶磁器くず1) 12.1〜32.7% 17.5〜31.1% 1.0〜2.5%
コンクリートくず1) 0〜37.2% 6.4〜43.9% 1.0〜1.1%
鉱さい 高炉スラグ(水砕) 5.0〜16.9% 40.0〜42.4% 4.7〜5.8%
高炉スラグ(徐冷) 5.5〜16.4% 40.8〜41.5% 6.1〜6.5%
製鋼スラグ 7.7〜14.3% 34.8〜40.5% 2.0〜3.0%
非鉄鉱さい 3.8〜8.4% 6.4〜10.0% 1.1〜1.5%
鋳物砂1) 9.6〜14.0% 6.50% 1.3〜1.6%
ばいじん類(集塵機捕集ダスト) ばいじん、ダスト 8.9〜14.3% 9.0〜13.4% 1.2〜1.5%
石炭灰(流動床灰)1) 0.1〜3.2% 14.5〜20.7% 0.7〜0.9%
石炭灰 1.0〜3.9% 4.1〜5.0% 1.0〜1.1%
  • (注)1) 2009 年度よりの新規追加分。
  • 2) 石炭灰やばいじん類等に含まれる未燃炭素からのCO2 排出について、我が国では燃料の燃焼及び廃棄物の焼却からのCO2 排出量の算定に酸化率1.0 を用いているため、「燃料の燃焼(1.A.)」及び「廃棄物の焼却(5.C.1.)」カテゴリーに計上される。なお、下水汚泥に含まれる未燃炭素からのCO2 排出については、下水汚泥はバイオマス由来であるため総排出量に含まれない。

  2021年度の実績として、これらの廃棄物等の使用量から求めたクリンカ中の廃棄物等由来のCaO含有率は1.6%、MgO含有率は0.3%でした。この廃棄物等由来のCaO及びMgOの効果により、CO2排出量として72.9万t、純度95%の石灰石とすると76.7万tが削減できたことになり、その効果は無視できないものです。

出典:国立環境研究所温室効果ガスインベントリオフィス編
「日本国温室効果ガスインベントリ報告書2023年」
「4.2.1 セメント製造」、page4-4〜4-7
https://www.nies.go.jp/gio/archive/nir/jqjm1000001v3c7t-att/NIR-JPN-2023-v3.0_J_gioweb.pdf
(上記表は出典元では表4-4)