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第2章 「 舗装種別選定戦略 」
カナダの人口の約75%は南側の米国国境から100マイル(160㎞)以内に集中し、60%以上がオンタリオ州、ケベック州の五大湖およびセントローレンス水路沿いに住んでいる。また、カナダ人の約80%は都市部で生活している。米国や他の高度先進国と同様にカナダの経済はサービス業が主で、米国と同様、国民の約75%がサービス部門で働いている7)。一方、一次産品部門、特に木材・石油産業もカナダ経済の重要な部分を占めている。豊富な石油・天然ガス資源に恵まれ、水力発電量も多いカナダは、先進国としては数少ないエネルギー純輸出国のひとつである。
カナダには、FHWAやAASHTOに相当する連邦機関はなく、各州政府がほぼ独自に活動している。連邦から道路への資金手当てがないため、州がすべての主要道路工事への資金供給に責任を負っている。建設資金には、燃料税ではなく主に一般財源が充てられている。
オンタリオ州はカナダの州の中で1300万人近くと最も人口が多く、総人口の38%が暮らしている。オンタリオでも、人口・経済活動は共に五大湖とセントローレンス水路に沿った南東部に集中している。
オンタリオ州で交通量の多い道路は、南部の400系の路線で、中でも北米随一の交通量のある401号線が最も重要な幹線といえる。この路線の年平均日交通量は425,000台(2004年)、日交通量は50万台を超えることもある。401号線はトロント地区の大半で片側6車線となっているが、片側7車線はおろか8車線9車線というところさえある。400系でその次に交通量が多いのはハイウェイ427号線で、年平均日交通量は約312,000台、そしてクイーンエリザベス・ウェイが年平均日交通量は175,000台となっている。
オンタリオ州ではセメントを多く生産しているため、カナダは国内の需要をすべてまかない、余剰を輸出している。2004年のカナダのセメント輸出量は約700万トンに上り、その内630万トンが米国向けであった8)。これに対して米国は、世界第三位のセメント産出国でありながら、国内需要の75%しか満たすことができず、残りの25%を輸入に頼っている。
1980年代に、MTOは、州内の舗装種類の選択過程にライフサイクルコスト分析を導入し、50年の分析期間で、現在価値に基づいて舗装設計の各選択肢の比較を行っている。最初の復旧工事までの初期耐用年数は、コンクリート舗装の場合28年、アスファルトの場合19年と仮定している。
ライフサイクルコスト分析では、MTOは金融省が定めた社会的割引率を適用している。社会的時間選好率とも呼ばれる社会的割引率は、「将来消費に対して現在消費にコミュニティ全体が与える相対的価値、またはコミュニティ全体が与えるはずだと政府が感じる相対的価値についての政府の判断を反映する」9)。また、社会的時間選好率は、「民間部門での利益率、金利、その他のいかなる測定可能な市場現象とも関係をもつ必要がない」10)。
MTOのライフサイクルコスト手順において、舗装路の残存価値とは、分析期間終了時点での按分残存寿命と定義される。現時点ではユーザーコストはライフサイクルコスト手順に入っていないため、MTOはどのようなユーザーコスト・モデルが望ましいか検討中である。
2001年に、MTOは主要な高速道路計画について、代案入札契約を実施した。これにより、同一の契約に対して、アスファルト業界、コンクリート業界の両方の入札が可能になった。これ以降に発注された6件の代案入札契約では、いずれもコンクリートが選ばれている。MTOは、ライフサイクルコスト分析の結果を基に、事前に入札調整係数を設定している。代案入札契約手順は2種類の入札書類を用意することが必要なため、MTOにとっては事前のエンジニアリング費用が増大することになるが、両業界の競争を促すことで、初期建設費用を2300万USドル(2600万カナダドル)節約することができた(通貨換算レートはすべて2007年4月下旬を基準にしている)。
図3 401号と407号線
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現在までのオンタリオ州での官民協力の顕著な例として、407号線がある(図3)。これは、もともと401号線のバイパスとして計画され、1999年に約28億USドル(31億カナダドル)で民間の共同事業体に賃貸された。この価格には、既存の43マイル(69㎞)の中央部(コンクリート舗装として建設)と、東西の端からの延長部分(アスファルト舗装として建設)を建設して総延長67マイル(108㎞)とする権利が含まれる。中央部30マイル(50㎞)の区間では、すでに6車線から8車線への拡幅工事が始まっており、別の区間でも30マイル(50㎞)の拡幅が計画されている。2020年末までには、一か所の短い区間で8車線となる他は67マイル(108㎞)の全長にわたって10車線となる予定である。
この99年間の賃貸契約によって、通行料自動徴収道路(ETR)407号が民間の運営となるが、州政府の道路安全設計基準の順守が義務づけられ、定期的に監査を受けることになる。MTOは407ETRおよびその下請会社、下請コンサルタントに対して年間10回の監査を行う。さらに、両者に雇用され、その指揮下に置かれる独立の監査人も頻繁に監査を行う。
図4 407号ランプ部で電子センサゲートを通過する車両
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407ETRは、世界初の全自動オープンアクセス型有料道路で、入口・出口ランプにあるオーバーヘッド・ガントリーに設置した電子センサーが車のフロントガラスに設置したトランスポンダーを検知し、料金を記録する(図4)。トランスポンダーのない車が407号線を通行した場合は、最新のナンバープレート認識システムを使って記録される(総重量(グロス)5トン以上の車両にはトランスポンダーの設置が法律で義務付けられている)。ユーザーには毎月明細書が送付され、口座の残高をチェックしたり407ETRのウェブサイトでクレジットカード自動請求の登録をしたりできる。
407ETRの交通量は、平均30万台/日である。通行料金はニューヨーク州有料道路の5倍以上高く、407ETRの端から端まで乗ると約18USドル(20カナダドル)となる。道路運営会社は、トラックを公共の道路の方に誘導する意図で、トラックの料金を乗用車の料金よりもかなり高く設定している。
オンタリオ州では、官民提携事業(PPP)として新しい道路の大工事が予定されている。政府側はPPP契約か、地域・期間契約かを検討している。地域・期間契約は、民間請負業者が一定地域内の州の道路すべての設計、補修、維持管理を担当する。PPP契約は、政府が運営から手を引いて管理の役割だけを担うダウンサイジングの流れに沿って、カナダ全土で増えているとみられる。
ケベック州では、総延長18,000マイル(29,000㎞)の道路網のうち、コンクリート舗装は767二車線マイル(1,239二車線㎞)、約4%を占めるに過ぎないが、交通量ではケベック全体の約75%を支えている。このコンクリート舗装路の大半はモントリオール市内とその周辺に集中している。ケベックではJPCPとCRCPの両方が施工されている。CRCPの魅力は、「get in, get out, stay out(一旦施工すればメンテナンスフリー)」という面であって、これは舗装の維持管理に使える資金は限られているため重要である。MTQが行ったライフサイクルコスト計算によると、あるケースではCRCPはJPCPに比べて約5%のコスト削減となることが示されている(分析期間50年、正味現価)。路線毎の実際のライフサイクルコスト削減量は、交通量により異なる。
MTQは1990年代半ばからライフサイクルコスト分析を行っている。90万USドル(100万カナダドル)以上の工事についてはライフサイクルコスト分析を行い、最も効果的な建設・改修方法を選択するための補助としている。50年の分析期間を設定し、4~6%の割引率を考慮している。分析には残存価額と作業区間ユーザーコストの両方を考慮している。MTQがライフサイクルコスト分析に使用しているコンピュータープログラムは、米国FHWAの開発したRealCostとTRDIの開発したVisual LCCAの2種類である。
図5 多基準解析にもとづく舗装種別選定による、コンクリートゾーンとグレーゾーン
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2001年にケベック州は、モントリオール、ケベック市エリアの路線(合計484マイル(779㎞))のどれをコンクリート舗装にするかを決定する、舗装種類選択についての部局政策を採択した。「ホワイトゾーン」内でのJPCP、CRCPの舗装選択は地域の決定に任されており、ライフサイクルコスト分析を基にすることもできるが、必ずしもそうでなくともよいとされる。これに近い226マイル(364㎞)の路線は「グレーゾーン」に区分され、これらについては、舗装種類の選択にライフサイクルコスト分析および他の要因(環境問題、技術基準、経済上の影響)が考慮される。この政策では、州内の他の全路線はアスファルト舗装とされている。図5にコンクリートグループとグレーゾーングループに指定された路線を図示する。個々の路線でのコンクリート舗装の指定は、おおむね州内の既存コンクリート舗装の場所に一致し、政府当局からも産業界からも歓迎されている。
MTQは、TRDIが開発したVisual/PMSという舗装管理ソフトを、舗装の施工、延長、状態データの保管、将来の舗装状態の予想、長期維持管理計画の策定支援用に使用している。
ケベック州は、2004~2007年の近代化計画の一環として官民共同事業の考え方を採用し、MTQは大型プロジェクトのオプションとして次の3種類のPPP契約を想定している。(1)設計および施工、(2)運用と維持管理の委任、(3)企画-設計-維持管理-運用および資金拠出。計画中のPPPプロジェクトには、モントリオール周囲のハイウェイ25および30号線の完成、数か所の休憩エリア建設と維持管理が含まれる。
9億USドル(10億カナダドル)のコストが見込まれるハイウェイ30号線計画は、シャトーゲーとオンタリオ州のハイウェイ20号線との連絡を完成する22マイル(35㎞)のハイウェイ部分と4マイル(7㎞)のその他の道路が含まれる。計画では、この工事は企画-設計-維持管理-運用および資金拠出のセットで行われることになっているが、コンクリート舗装になるかどうかは未定である。
ドイツではコンクリート舗装が長寿命であると考えられていて、交通量の多いドイツの高速道路網の25%はJPCPである。ドイツではCRCPの歴史は浅い。本調査団はダルムシュタット近郊のA-5アウトバーンに2005年に建設された0.9マイル(1.6㎞)のCRCP試験区間を訪れた。
新たな高速道路建設や再建が計画されると、政府は構造クラス(高速道路など)を指定して見積依頼を出す。入札者はカタログを使って工法の種類を選び、アスファルトかコンクリートか、および路盤の種類を選択する。異なる工法によって別のオファーを提出することもできる。
入札者のオファーは初期工事費用だけを含み、ライフサイクルコストは含まない。また、コンクリート舗装は対応するアスファルト舗装よりも初期コストがやや高いが、維持管理コストは低いと考えられるため、1平方フィート当り0.22USドル(1m2当り1.80ユーロ)のクレジットが与えられる。この値の選択は任意であって、ドイツのセメント業界は、この値が低すぎると考えているが、まだ特定の値を提案するには至っていない。
官民提携事業の場合と異なり、政府出資の工事では、請負業者はコンクリートおよびアスファルト舗装について4年間の保証を行うことが義務付けられる。4年の保証期間の終了時点で舗装に要求される機能を定める規定が現在策定されている。請負業者は、配合設計の他、コンクリートの強度、空気量、厚さ、平たん性、すべり抵抗について施工検査を行う責任を負う。
官民提携事業の工事では、建設会社は道路の建設と最大30年間の維持管理に責任を負う。PPP工事の中には20年、あるいはそれ以下の維持管理期間のものもある。実際の累積交通負荷が契約に定められた維持管理期間に対して予測された累積交通負荷に予測より早く到達した場合には、その時点で維持管理に関する契約条項は終了する。建設会社は通行料から収入を得るため、ライフサイクルコストは工法の選択に影響を与える。ライフサイクルコストが低い方が建設会社の利益になるからである。このPPPよりは、従来の建設請負契約の方が普通に行われている。
ドイツでは、6~9 マイル(10~15㎞)の道路建設工事のPPP契約用に3つの請負モデルが用いられている。建設契約において「C」モデルでは、道路の建設と維持管理に30年の契約が許可され、連邦予算から資金が出る。このモデルに従ってすでに4件(アスファルト2件、コンクリート2件)の試験工事が合計25マイル(40㎞)にわたって行われた。「F」モデルでは、初期融資のうち最大20%が連邦予算から出る。残りの工事・維持管理コストは通行料で支払われる。このモデルでも過去に数件のコンクリートおよびアスファルト舗装工事が行われている。「A」モデルは「F」モデルに似ているが、連邦予算から融資される割合が20%でなく50%である。「A」モデルの融資による契約はこれまでに5件あり、約148マイル(238㎞)の道路が建設された。
BAStが維持する舗装管理システムを使って、構造情報、モニタリングデータ(摩擦係数、高速プロファイル測定)、交通量データ、事故データが蓄積されている。ノイズデータは集めていない。
モニタリングデータの大半は請負業者が集め、ドイツの各州で政府が監視している。データ収集のサイクルは4年で、最初の2年間は高速道路で収集し、次の2年間は他の連邦幹線道路で行っている。舗装管理システムは、主に短期維持管理計画の作成に使われている。
高速道路は、オーストリア連邦道路網(8,700マイル(14,000㎞))の約4分の1を占めている11)。交通量の多い高速道路の3分の2(2,485一方向マイル(4,000一方向㎞))はコンクリート舗装路である。
オーストリアで最初のコンクリート舗装路ができたのは1925年、最初の高速道路は第二次世界大戦の直前に完成した。オーストリアで戦後にできた高容量道路は、ドイツのアウトバーンにならってコンクリートで建設された。当時は高密度交通路用のアスファルトは開発されておらず、高容量用途はコンクリートが独占していた。1970年代に交通省が採用した舗装計画では、どの道路にどんな舗装を適用するかは、トラック交通量、土壌、地質条件に応じて自治体の選択によって決めることとされた。
交通省の舗装選択計画は1980年代には廃止され、ライフサイクルコストが考慮されるようになった。80年代、オーストリアではアスファルト舗装技術が急速に進歩し、一方、コンクリート舗装はコストが高い、騒音、修理が困難などとこの時期に見なされるようになった。80年代には、予算の制約により高速道路建設は借入れによって行われ、版厚の削減、車線幅や路肩幅の削減など、様々なコスト削減策が講じられた。
図6 50年以上供用した後の2003年に再建したA1高速道路
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1990年代前半には、コンクリート舗装技術のルネサンスとも言うべき革新が始まり、1990年には道路網内の古い部分の再建、拡幅、形状改善計画が開始された。一例として、ウィーンとザルツブルクを結ぶA1高速道路で、もとは1959年から1961年の間にコンクリートで建設され、2003年にコンクリートで再建された一区間を図6に示す。オーストリアで90年代に始まったコンクリート舗装の増加に貢献した技術改革には、骨材洗い出し工法、古いコンクリート舗装の再利用、急速補修工法などの手法が含まれる。交通量が増えたこと、アスファルト-コンクリート間の価格差が縮まったこともコンクリート舗装の増加につながった。ソヴィエト連邦の崩壊とともに、閉ざされていた東方への国境開放によって、オーストリアのトラック交通量は増大し、今後も大きく増加すると予想される。
1950~60年代に建設されたコンクリート舗装道がすべて再建されたわけではない。未再建の道路のひとつとして、1956年に開通したオーストリア南部Carinthia地方のMolltalroad がある。元の長さ(30マイル(50㎞))の約半分は現在も使われていて良好な状態にあるが、残りの半分はアラインメントや交差点を改善するため、設計見直しが行われた。この道路は山間部に位置し、年平均日交通量は3,325台(トラック5.7%)~6,136台(トラック4.5%)である。Molltalroadのコンクリート表層の厚さはわずか8インチ(20㎝)で、路盤層無しで直に地盤に施工されている。現代のオーストリアの基準からいうと不適切な施工であったが、この道路は50年の供用に耐えて良好な平たん性とすべり抵抗性を保ち、損傷もほとんどない。12)
図7 交通量と低速度の大型車両量にもとづくオーストリアにおける舗装選定の概念図
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1990年代後半に、FSVは「ガイド・ドキュメントRVS 2.21各種舗装法の経済性評価」を作成し、2001年にはすべての連邦道路の舗装種類の選択に、RVS 2.21の使用が義務付けられた。現在では、舗装の種類はRVS 2.21で概説されたライフサイクルコスト分析を基にして選択されている。一般に、コンクリートは負荷の高い道路(1日当たり大型車両8,000台以上)や低速大型車の多い区間でコンクリートが選ばれる傾向にある。アスファルトかコンクリートかを選択する際に、大型トラックの年平均日交通量と交通流内での低速大型車の比率がどのように影響するかを表す概念図を図7に示す。
オーストリアでは次のような場合、コンクリート舗装が高負荷の道路用として経済的であるとみなされている。
コンクリート舗装がライフサイクルを通じてもたらす恩恵を得るためには、正しい設計(版厚、目地間隔、スリップバー等)と、計画全長にわたって均等に高い品質の工事を行うことが必須であると考えられている。
図8 オーストリア高速道路網
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図9 オーストリアの道路管理システム
FHWA-PL-07-027,p.17
オーストリアには高度な舗装管理システムがあり、舗装データの収集、舗装状態の予測、舗装維持管理戦略のライフサイクルコスト分析に使用されている。オーストリアで道路網の管理に使われているのは、カナダの会社が開発したVIAPMSという舗装管理ソフトである。この道路網の重要な要素は、図8に示す高速道路ネットワークである。オーストリアの舗装管理システムの構成を図9に示す。
ネットワーク全体にわたる舗装状態の監視として、わだち掘れ、すべり抵抗性、ラフネス、コンクリート版のひび割れ、表面欠陥等のデータ収集を行う。データベースの中で舗装区間の数を管理可能に保つため、動的セグメンテーション・アルゴリズムを使用して、区間の状態と全区間データに基づいて類似の区間を組合せている。
各舗装区間の快適安全指数(CSI)を計算するのには、すべり抵抗性、わだち掘れ、縦断面データを使用し、構造指数(SI)を計算するのには、表面の欠陥、スラブのひび割れ、および(コンクリート舗装の場合)材齢を使用する。これらの指標を使って各舗装区間の全体状態指数(TCI)を計算する。この指数がネットワークレベルでの最適化アルゴリズムにパラメーターとして使われる。
将来の舗装状態の推定には線形および対数回帰モデルが使われる。単純化したモデルと、限られた数の回帰変数(材齢、等価単軸荷重(ESAL)、設計指標、および凍結指数)で、さまざまな舗装種類に対応する。最近のウィーン工科大学との協同研究では、既存の舗装状態予測モデルの改善と新しいモデルの開発に取り組んでいる。
図10 費用便益分析にもとづく各舗装補修戦略のための利益算出(オーストリアの道路管理システム)
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オーストリアのVIPMSシステムの費用便益分析ルーティンでは、ネットワーク内の多くの舗装区間のそれぞれについて、複数の処置方法からひとつを選ぶために便益費用増分分析が用いられている。便益は、ある処置方法について予測される状態曲線と何もしなかった場合の状態曲線の間の面積として数量化され、交通量で重みが付けられる。図10にこの便益の定義を図示する。
移動時間、燃料消費、事故を考慮したオーストリア舗装管理システムのためのユーザーコスト・モデルが現在開発中で、2007年には実用化される予定である。
VIAPMSソフトの出力のひとつとして、図11のように舗装区間ごとの道路状態を色別に示した地図がある。図11で拡大されている車道部分は、ウィーンとザンクトペルテンを結ぶA1高速道路にある。
図11 オーストリア道路管理ソフトにおける舗装状況マッピング
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舗装表面の摩擦係数は、オーストリア、特に雪が多く、傾斜がきつく、トンネルが多い山間部では重要な安全上の検討事項である。摩擦係数の試験は完成後の受入れ時と保証期間終了時に義務付けられている。供用中の舗装の定期的な摩擦試験も、高速道路ネットワークレベルの舗装管理の目的で行われている。全高速道路ネットワークの摩擦試験は3サイクル(1991~1994、1994、2004~2005))行われ、幹線道路ネットワークの摩擦試験は2サイクル(1991~1996、2001~2002)行われた。
オーストリアの摩擦試験は、オーストリア・アーセナル・リサーチの専門家がシュツットガルト自動車工学・自動車エンジン研究所との協力で開発したRoadSTARと呼ばれる車両を使って行われる。RoadSTARの測定装置は1,585ガロン(6,000リットル)の水タンク付き2軸台車に搭載されている。RoadSTARは、舗装路の表面摩擦係数を25~75マイル/h(40~120㎞/h)、8%までの傾斜路では50マイル/h(80㎞/h)の走行速度で測定可能である。最近摩擦受入れ試験データを検討した結果、トンネル内の新しい舗装の摩擦係数は、道路網内の他の場所の新しい舗装と比べて明らかに低い傾向にあることがわかった。この差の原因を調査するため、国レベルの研究が開始された。13)
今日、オーストリアの高速道路ネットワークの管理は、かなり変則的は形態の官民提携事業、すなわちオーストリア連邦政府が所有する民間会社によって行われている。このオーストリア高速道路会社ASFiNAGが、オーストリアの高速道路・有料道路ネットワーク全体の計画、出資、維持管理、運営を行っている。ASFiNAGは、EU加盟の要件であった国家財政の均衡を達成する第一歩として、1982年に金融会社として設立された。1997年には、オーストリア政府のASFiNAG承認法通過によってその責任の範囲が拡大された。ASFiNAGは、料金を収受すること、および連邦道路ネットワーク上の所有物またはその他の設置物から生ずる収入はすべて、これを受け取る権限を与えられている。ただし料金を決定する権限はなく、この権限はオーストリア政府に残されている。ASFiNAGは公共有限責任会社で、その株式はすべてオーストリア共和国が保有している。
2004年初頭、総重量3.5トン(3.1メートルトン)を超える車両用の完全電子式距離連動型料金システムが幹線道路ネットワークに導入された。イタリアのAUTOSTRADE社の子会社であるEUROPASSとの設計・施工・出資・運営に当たる官民協同事業(DBFO PPP)から、ASFiNAGは年間約8億1600万USドル(6億ユーロ)の収益を得、この他にこれより軽い車両に課す料金収入としても年間約8億1600万USドル(6億ユーロ)を見込んでいる。
ASFiNAGは、官民提携事業として4件の高速道路改善工事の契約パッケージを計画した。これらのパッケージは、ウィーン周辺の東オーストリアで70マイル(113㎞)の道路を建設するプログラムを構成しており、完成すればウィーン地区の渋滞解消、ウィーンと北部地域との交通移動の改善、チェコ共和国との効率的な南北流通が可能になる。
ベルギーは言語的・文化的に、首都ブリュッセルのある北部のフランドル地域(オランダ語)と南部のワロン地域(主にフランス語)の2地域から成り立っている。法律的には、ベルギーは上記2地域と、フランス語、オランダ語の両方が話される首都ブリュッセル地域の3地域に分かれる。異なる3つの道路管理当局が、3地域それぞれの道路建設・維持管理に関する事項を監督している。ベルギーではハイウェイ専用の資金がないため、一般歳入資金が使われている。
ベルギーは人口密度が高い。メリーランド州よりも狭い11,600平方マイル(30,000㎞2)の国土に1千万人が暮らしている。その約10%はブリュッセルに、60%はフランドルに、残りの30%がワロンに住んでいる。ベルギーの経済はサービスに非常に力を入れており、フランドル地域の一人当たりGNPは、EU内でも最高位に位置している。ワロンの経済は、個人所得で見るとフランドルよりも約25%立ち遅れている。
ベルギーの高速道路ネットワークの大部分はCRCPで建設されている。CRCPを大規模に使用しているのは、欧州ではベルギーとフランスの2か国だけであり、特にベルギーは熱心にこの方法を採用してきた。今回の調査の目的からしてさらに興味深いのは、ベルギーのCRCPの設計・施工技術が米国のものを基にしている点である。ベルギーの高速道路ネットワークはほぼ完成しているため、現在道路への投資の多くは、ネットワーク内で最も古いコンクリート舗装の改修に向けられている。古いアスファルト道路の一部もコンクリートに転換されている。これは、全体をコンクリートで再建する場合と、外側の車線にコンクリートをはめ込む場合がある。
環境意識は、ベルギーでは市民・政治の強い影響力となっている。タイヤ-舗装の騒音と建設材料のリサイクルは、ベルギーで舗装の設計・材料・構造を選ぶ際の重要な要素となっている。最近の論文15)に書かれたように、「維持管理を含めたライフサイクルコストや、ユーザーコストを考えれば、経済的にコンクリートの方が望ましい解決法になり得ると今や大多数の人が納得している上に、コンクリート道路は環境にやさしく持続可能であるということが明らかになり、この面からの重要度も確実に上がっている。」
ベルギーのコンクリート業界は、毎年約3000万トン(2720万メートルトン)のコンクリート・コンクリート製品を生産している。コンクリートは、供用期間終了後もリサイクルできるということで、ベルギーでは好評である。また、フランドル地域では、岩石様のビルのがれきの85%がリサイクルされている。ベルギーでは、2層に打ち継ぐ構造で、下の厚い層に低い品質の材料、上の薄い層に耐摩耗性、耐久性のある骨材を使用する特殊な工事が数件行われた。ベルギーでは良質の骨材が入手しやすいため、解体コンクリート片を下層に使うことは行われていなかったが、この種の試みが計画され始めている。オーストリアで人気のある骨材露出仕上げの技法は、ベルギーでも行われている。ベルギーでもオーストリアでも、低騒音の表面を作るもうひとつの方法としてのポーラスコンクリート表面は、多孔性も吸音性もあまり長続きしない、ということがわかってきたためである。
ワロン、フランドルの両地域は高速道路ネットワークの内、同程度の長さ(530~560マイル(850~900㎞))を管理し、ブリュッセル地域が管理するのはこれより短い7マイル(11㎞)である。全体として、ベルギーの道路密度(単位面積当たりの道路の長さ)は欧州で最も高く、オランダがこれに迫る密度で第二位である。ベルギーの道路ネットワーク83,000マイル(134,000㎞)は、高速道路と地域道、州道、地方道、農村道からなり、高速道路は約1,100マイル(1,700㎞)で、全体の1%強となっている。コンクリート舗装路は高速道路の40%を占める。ベルギーでは、本調査に関して訪れた国々と比較して、交通量の少ない道路でもコンクリート舗装が多く見られる。農村道でも60%がコンクリートである。全体として、ベルギーでは全道路ネットワークの17%がコンクリート舗装である。
図12 1925年にベルギーで初めて建設されて78年供用後に補修されたコンクリート舗装
FHWA-PL-07-027,p.19
図13 ベルギーのフランドル地域の主要道路
FHWA-PL-07-027,p.20
図14 ベルギーのワロン地域の主要道路
FHWA-PL-07-027,p.20
ベルギーには何十年も使われているコンクリート舗装路の例が数多くある。ベルギーで最初のコンクリート舗装路であるロレーヌ通り(図12)は1925年の建設以来使われ続け、2003年にコンクリート・オーバーレイが施工された16)。
フランドル地域では、車道ネットワーク(図13)の管理はフランドル交通土木省の社会基盤庁(IAA)が行っている。スタッフ約1,600人のこの庁は、3,900マイル(6,300㎞)の車道と4,200マイル(6,700㎞)の自転車専用道を管轄する。フランドルの道路ネットワークの内、高速道路は531マイル(855㎞)である。IAAの年間予算は約4億2600万USドル(3億1300万ユーロ)で、このうち道路ネットワークへの投資に3億300万USドル(2億2300万ユーロ)、道路の維持管理に1億2100万USドル(8900万ユーロ)が割り当てられている。
ワロン地域では、車道ネットワーク(図14)の管理は、ワロン設備運輸省のハイウェイ・ロード総局が行っている。スタッフ約1,600人の総局は、約540マイル(870㎞)の高速道路と約4,200マイル(6,800㎞)のその他の道路を管理している。ハイウェイ・ロード総局の年間予算は約2億6500万USドル(1億9500万ユーロ)である。このうち8300万USドル(6100万ユーロ)が高速道路とその他の道路への投資、約9100万USドル(6700万ユーロ)は日常の維持管理(冬季の維持管理を含む)に、約6600万USドル(4900万ユーロ)は特別な維持管理プロジェクトに向けられている。
ベルギーでは、大プロジェクトを除けば、プロジェクトレベルの舗装種類の選択にライフサイクルコスト分析を用いることはない。ワロン設備運輸省(MET)が最近出したレポートには、CRCPが高速道路に多く使われる理由が示されている。これによると、高速道路用のアスファルト舗装とCRCP舗装を比べると、アスファルト舗装は初期建設コストが低いが、約14年を超える分析期間ではCRCPの方がコスト効率が高いと判断された17)。
主に高速道路以外の道路用として、METは舗装種類の選択のための多基準分析法を開発している。考慮する量的要素には、コスト、わだち掘れ抵抗性、すべり抵抗性、ひび割れ率、騒音が含まれる。質的要素には、表面および表面下の排水性、通行止め、一般の人への迷惑、将来の補修のための電気・ガス・水道管等へのアクセスしやすさ、ルート上近傍の他種類の舗装との融和性、地域の条件への表面仕上げの適合性、維持管理の容易さ、建設の容易さ、凍害抵抗性、冬季の維持管理の容易さが含まれる18)。
ベルギーでは、他の種類の公共工事(学校建設など)には官民提携方式がとられているが、これまでは道路関係でPPP方式の工事は行われたことがなかった。しかし、現在計画中の6件の大きな車道改善工事がPPPで行われる予定である。これらの工事では、請負業者が初期建設費を負担するとともに30年間の維持管理に責任を負う。これらの工事には機能的要求事項(摩擦係数と快適性)が定義されるが、必ずしも現在使われている公営の道路の機能的要求事項と同じではないとみられる。30年の期間中、請負業者が補修のために道路の一部を閉鎖する時は、その都度車線の貸出料金が課せられる。
人口1600万人のオランダは、欧州で最も人口密度の高い国である。比較的狭い上に国土の18%が水域であるが、食品加工がこの国の重要な産業で、オランダは米仏に次ぐ世界第三位の農産物輸出国である。オランダ経済のもうひとつの重要な部分はエネルギー部門である。世界第二位の石油会社ロイヤルダッチシェルはオランダに本拠を置き、世界最大の天然ガス田はオランダの北西にある。ところがガソリン消費に対する税金は高い。ガソリンの価格は欧州の他のどの国よりも高く、米国の2~3倍である。ハイウェイプロジェクトへの資金は燃料税と車両登録料から出ている。ハイウェイに使われる年間の土木予算110億US ドル(80億ユーロ)の内、約60%が建設、約40%が運用と維持管理に使われる。
オランダの道路ネットワークの約70,000マイル(113,000㎞)の内、高速道路は約1,400マイル(2,300㎞)で、全長の2%に過ぎないが、全交通量の38%を運んでいる。コンクリート舗装は、この高速道路の5%で、約半分がCRCP、残りの半分がJPCPである。オランダでは、地域道ネットワークにも87マイル(140㎞)のJPCPがある。コンクリート舗装路はオランダの道路全体の4%である。自動車専用道路の他、自転車専用道が12,000マイル(20,000㎞)あり、その10%がコンクリートである。
1985年に騒音防止法が施行されたことによって、オランダでは、舗装表面の違いによる交通騒音の違いが論議された。伝統的なほうき目仕上げでは、交通騒音計算測定基準に定義された基準舗装面(密粒度アスファルトコンクリート)よりも騒音が約3dBA(調整デシベル)高いことがわかった。1980年代後半に、高速道路局はコンクリート舗装の表面にポーラスアスファルトコンクリートを用いてこの問題に対処することを決定した。
一方向年平均日交通量が50,000台を超えるオランダでは、一般にアスファルト舗装よりもコンクリート舗装が好まれている。ランドアバウトの建設にもコンクリートが選ばれている。1980年代後半から90年代前半にかけて、コンクリート表面の騒音を減らすために主に行われたことは、ポーラスなアスファルト表層を施工することであった。しかし90年代中ごろには、一層、二層のいずれの場合もコンクリート舗装で骨材露出工法の実験が始まった。
近年、ライフサイクルコストの低さや維持管理が不要であることなどからコンクリート舗装への関心が再び高まっている。特にアムステルダム、ロッテルダム、ハーグ、ユトレヒトの四大都市圏では、交通混雑がひどく、舗装のために車線を規制することは難しい。コンクリート舗装は、初期建設コストが高く、アスファルト舗装ほどには環境にやさしくないとオランダでは考えられている。一方で、アスファルト舗装は、わだち掘れを補修して供用期間を延長するたびに工事が必要となり、維持管理コストが高いことが欠点と見なされている。近年の長寿命コンクリートへの新たな関心の高まりは、オランダ政府のダウンサイジングへの流れとも重なり、道路投資と維持管理における官民提携業務の役割は一段と重みを増すものと予想される。オランダではこの5年間に、道路建設の7年の保証付き設計-施工契約が広く行われるようになった。請負業者の設計-施工契約への入札は、次のような重み付け法で評価されると見られる。
2007年以降に落札された契約では、政府が舗装種類の決定を行うが、請負業者は政府の舗装設計ソフトを使って設計の詳細を選択することができる。舗装種類や設計の詳細を、経済、環境、その他の要素の関数として選択するための決定支援モデルを開発するため、政府、業界、コンサルタント、請負業者の代表からなるCROWワーキンググループが組織された19)。このモデルでは、1回の分析で6種類までの設計オプションを比較することができる。ユーザーは各オプションについて、当該道路種類の舗装、路盤、砂床の構成についてデータを入力または選択しなければならない。このプログラムには、異なる舗装タイプと道路クラスのデフォルト舗装断面が組み込まれている。
オランダの決定支援モデルで使われている3つの主な要素は、コスト、環境への影響、およびその他の要素である。「コスト」には建設、再建、維持管理、解体の費用が含まれる。すべてのコストは正味現価を基に計算される。「環境への影響」は、量的(排出ガス等)、質的(迷惑等)の両成分を考慮するモデルを使って評価する。「その他の要素」のカテゴリーは、ユーザーが関心を持つ様々な事項を独自に考慮できるように設けられている。
1995年にオランダ政府は、国のプロジェクトの経済性評価では必ず4%の割引率を勘案することを決定した。このため、多基準決定支援プログラムには、デフォルト割引率4%が設定されている。オランダの決定支援モデルの開発者によると、他の欧州各国では政府が定めた別の割引率を使っている(ドイツ3%、英国6%、デンマーク7%、フランス8%等)一方、EUは5%の割引率が妥当だと考えている。
この決定支援モデルは基準重み付けシステムを採用しているが、主観的な重みの割当ては分析結果に影響するため、これが恐らくこのモデルで最も議論の多い部分と思われる。批判に対する反論として、決定基準に重みをつけないことは、それ自体ひとつの重み付けであって、しかも将来変わるかもしれない優先順位を考慮できる柔軟性を与えないことになる、と主張されている。
図15 多基準解析の感度を示す三角図
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プログラムに使用されている3つの主な決定基準(コスト、環境への影響、その他の要素)に対し、図15に示す重み付けの三角形を使うと、異なる重みの組み合わせを比較し、その組合せがどの程度最終結果に影響するかを見ることができる。三角形の各辺は、「コスト」、「環境への影響」、「その他の要素」の各重み付け要素を0~100%で示している。分析で評価される舗装の選択肢には番号が付けられる(最大6まで。図15の例では2種のみを比較)。三角形の中の各セルは三つの要素の重みの組合せを表し、各セルの数字はその組合せに好適な設計の選択肢である。四角で囲まれたセルは現在の分析で実際に使われた要素の重みの組合せを示している。四角形が望ましい選択肢が変わる境界線に近い場合は、選択した重み要素の組合せが結果に鋭敏に影響することを図式的に説明している。
オランダでは、コンクリート舗装の人気は、伝統的に他の欧州諸国ほどではなかったが、国内各地、特に南部ノールトブラバント州で、以前からコンクリート舗装を好んで使用している地域もあった。この州では、コンクリート舗装が1950年代から着実に施工され、現在では道路網の約35%がコンクリート舗装となっている。最近ノールトブラバント州および他州での舗装工事と維持管理について調査があり、その重要な発見のひとつは、「広く認識されながら実証されていなかった、『コンクリート舗装は、供用期間中、実質的に維持管理不要であること』が確認された」20)ことであった。
表1 オランダ国内の異なる機能クラスのコンクリート舗装路の設計寿命
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同じ研究で、オランダ国内の異なる機能クラスの4種のコンクリート舗装路の設計寿命と実際に予想される寿命について、表1に示す結論が得られた。これらの実際の寿命は、オランダでの50年以上の実績に基づいたものである。タイプ1は主要道路網および高速道路局や州が管理する高速道路、タイプ2は州が管理する交通量の多い道路と郡道、タイプ3は州、地方自治体、水道委員会が管理する交通量が中程度の道路、連絡道路、バス専用レーン、タイプ4は地方自治体と水道委員会が管理する交通量の少ない道路と農道である。
英国は、イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドの4か国の政治的統一体であり、ジブラルタル島、フォークランド島をはじめとするいくつかの海外領土も含まれる。英国は立憲君主制で、同じ君主、エリザベス2世を国王と仰ぐ他の15の連邦諸国と緊密な関係を持っているが、直接に行政を管理しているわけではない。
英国の人口5800万人は、独仏に続きEUで第三位であり、その83%はイングランドに、1/4は南東イングランドに住んでおり、ロンドンには約750万人が集中している。
英国は高度先進国で、経済規模は世界第5位、EU内ではドイツに続く第2位である。製造業と農業が英国経済の中に占める割合はかつての大きさには遠く及ばないが、昔から変わらぬ重要産業で道路網に強く依存するのが観光業である。英国は世界で第6位の人気観光地である。エネルギー部門も重要で、石炭、天然ガス、石油の埋蔵量が多い。それでも、高速道路の混雑解消のためもあって、ガソリン税が欧州で最も高い。最近ロンドン市は、市の中心部の交通混雑を緩和するため、平日に市に入る全車両に高い税金を課すという、論議を醸しそうな策を打った。
図16 イギリスの高速道路および多目的道路網
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図17 コンクリート舗装の表層アスファルト仕上げ(イギリス)
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英国の道路網は総延長177,000マイル(285,000㎞)で、その内約900レーンマイル(1,500レーン㎞)がコンクリート舗装路である。この道路網のイングランドの部分を図16に示す。ウェールズ、スコットランド、北アイルランドはこの図には載っていない。
1980年代前半まで、コンクリート舗装の中ではJPCPとJRCPが主流であったが、80年代半ばから90年代半ばまではCRCPのほうき目仕上げが中心となった。90年代の終わりに、公共政策として、薄層加熱混合アスファルト仕上げ(図17)がコンクリート舗装に要求されるようになった。これは、議会に対して世論の圧力が強まり、道路庁を動かして道路表面からの騒音を減らす方策を立てさせたことによる。道路庁によるこのコンクリート路面露出の禁止措置は、イングランドだけを対象とし、英国の他の地方には適用されていない。
官民提携事業プロジェクトの場合、請負業者は「規定の免除」を申請して別の舗装種類を選ぶことがある。請負業者がリスクを負うため、道路庁はたいていそのような申請を許可する。PPPプロジェクトに特有の要求事項として、30年経過後、10年の寿命を残して道路を返還しなければならない、というものがある。しかし道路庁には、30年目に残りの寿命を決定するための決まった手順がない。例えばアスファルトのオーバーレイを最後の年に施工すれば、その後10年の残り寿命という要件をクリアできると思われる。
英国でPPPとして行われた最初の道路改善工事のひとつが、アルコンベリーとピーターバラの間のA1(M)高速道路の拡幅工事である。1996年に結ばれたこのDBFO契約(Design Build Finance and Operate : 設計、施工、維持管理、資金調達一括発注方式)では、ロンドンとニューカッスルを結ぶA1高速道路内の13マイル(21㎞)の区間について、提携企業の共同事業体が2026年までの間、拡幅、運用、維持管理に資金を提供することが要求された。建設費の見積は2億5500万USドル(1億2800万ユーロ)であった。共同事業体はその見返りに、道路の利用量の関数として計算される「影の通行料」(道路利用者は料金を払わない)の形で、道路庁から支払を受けている。道路庁はその道路の所有権を保持しており、庁の代理として道路の建設、運用、維持管理の監視を行う独立のコンサルタントを雇っている。
道路庁は、英国の道路網用に舗装管理システムを維持している。この舗装管理システムに蓄積される交通データは、今のところ重量商用車に限られている。これはこの舗装管理システムが本来注目していたのは舗装の劣化であったためである。現在では運用問題が重要度を増してきたため、舗装管理システムのデータベースにおける乗用車の通行量に関する情報を改善する作業を行っている。
道路庁は、TRAC設備、SCRIM装置、デフレクトグラフを使って、それぞれ縦断面の測定、滑り抵抗の測定、非破壊たわみ試験を行っている。舗装状態の目視による調査も行っている。
プロジェクトレベルの維持管理処理方法を選ぶ際に、SWEEP(舗装全寿命経済性評価のためのソフトウェア)と呼ばれるコンピュータープログラムが使われる。ネットワークレベルの分析プログラムは7年越しの開発中で、この4年間は舗装投資と維持管理活動の年間プログラム生成の支援を行ってきた。この独立型のネットワークレベル分析プログラムは民間部門のTRLが開発したもので、道路庁の舗装管理システムソフトウェア内の他のモジュールとは相互通信しない。