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FHWA-PL-07-027
Long-Life Concrete Pavements in Europe and Canada
August 2007

報告書の原文

日本へ推奨される項目

本頁は、米国連邦道路管理局の報告書FHWA-PL-07-027 「Long-Life Concrete  Pavements in Europe and Canada」をセメント協会舗装技術専門委員会が和訳したものです。原文は、FHWAのホームページで公表されています。

第7章 「 研究・トレーニングおよび協力関係 」

カナダ

オンタリオ州の運輸省は、ORBA、CACおよびオンタリオレディミックスコンクリート協会と密接に連携し、TAC、FHWA、TRB、ASTMやAASHOT委員会など、多方面に参画している。また、カールトン大学、クイーンズ大学、マクマスター大学、トロント大学、ウォータールー大学など、様々な大学と行政との間には技術協力が存在する。この技術協力により、「MIT-SCANの利用」「プレキャストコンクリート舗装の補修」や「騒音の研究」などにおいて、仕様の開発や試験の実施を提供している。

MTQは、道路協会、カナダセメント協会、Bitumeケベック(ケベックのアスファルト産業の団体)のメンバーと相互に連携している。業界の代表は、MTQの技術委員会に委員として参加し、「契約」「規格」や「仕様」について議論する。例えば、MTQの2001年の舗装種別選定の施策は、政府当局とアスファルト業界、コンクリート業界の代表者との2年の議論に基づくものである。ケベックでは、コンクリート業界、アスファルト業界の調査活動をMTQが後援している。

MTQは、CRCPへのガラス繊維強化ポリマーバーの使用を調査している。イリノイ州で実施した同様の研究に基づく。2006年にCRCPプロジェクトが終了し、鋼材量、スラグ厚さ、鋼材の単層および二層を水準とし、12の組み合わせの試験区間が建設された。MTQは、普通コンクリート舗装の目地部へ、ガラス繊維強化ポリマーのダウエルバーを使用することについても調査している。

その他のMTQの調査には、骨材露出、縦タイニング、ショットピーニングやマイクログライディングなど路面性状を変化させたコンクリート舗装のすべり抵抗や騒音の調査があり、タイヤ路面騒音を計測するためADRを開発した。そのADRを使用して30箇所の現場を計測し、タイヤ路面騒音の経年変化を調査した。

ドイツ

デュッセルドルフにあるVDZは、ドイツセメント産業の技術的、科学的な団体である。VDZの組織機構は、米国のPCAと似ている。ドイツのセメント会社のほぼ全てがVDZの会員であり、29の国際的な会員である。

VDZの研究所は、環境、プラント技術、セメント化学、コンクリート技術、環境調査や品質保証について研究をしている。VDZの研究室は、セメント・コンクリート試験の最先端の装置が装備されている。VDZは、図書館やセメント・コンクリートの電子文献データベースを維持している。この文献データベースは、研究所と同じように、インターネットでアクセスすることができる。VDZの予算のおよそ38%は調査(大学への使用も含む)に費やされ、その他37%は、キルン排出試験、セメント採取、凍結試験、硬化コンクリートの気泡量調査などのコンサルティング業務に費やされる。

ドイツ政府交通連邦局内の研究機関であるBAStは、ベルギッシュ・グラートバッハにある。BAStの業務は、高速道路の建設、容量、安全、事故や冬季のメンテナンスも含まれる。BAStは、州間高速道路やアウトバーンを管理する州の高速道路管理者へ技術的指導も、ドイツ政府に代わって行っている。BAStの職員は400名で、年間予算は4000万ドルである。

ミュンヘン工科大学は、ドイツの舗装設計指針の開発で中心的な役割をし、コンクリート舗装の挙動や性能について様々側面から調査を行っている。

ドイツにおけるコンクリート舗装調査の質の高さと産官学の連携は印象的であった。3機関は、規格(設計カタログなど)を制定するさいにも共同で行う。VDZ、BASt、TUMの3者は、協調のイメージを伝え、「良好」「安全」「長寿命」の舗装を提供する目的を共有する。

VDZは、キルンやプラントの操業のために訓練をかなり実施しているが、舗装の請負業者はそのような訓練をうける機会がない。ドイツ連邦政府は、訓練や実施することについては、密な連携ができていない。

オーストリア

VOZは、13のオーストリアのセメント会社で構成され、技術部門をうけもつ18人のスタッフからなる調査機関をもつ。本機関は、セメント・コンクリートの認定機関であり試験機関である。業務は、試験、検査、コンサルティング、製造開発や技術移転である。コンクリート舗装の昨今の話題は以下の通りである。

  • 新設の舗装のコンクリートのリサイクルとアスファルト粒子の影響
  • コンクリート舗装路面の騒音低減
  • 骨材露出技術への遅延剤および養生剤
  • 早期交通開放のコンクリート舗装
  • 高性能コンクリート:水和熱、収縮および弾性係数
  • 構造物コンクリートのリサイクル
  • 既設アスファルト舗装への付着型薄層コンクリートオーバーレイ
  • アルカリ骨材反応
  • セメント安定処理路盤からのリフレクションクラックの低減
  • アルカリ骨材反応対策の新しいセメント


図47 オーストリアの道路規格の制定過程
FHWA-PL-07-027,p.44

FSVは、9つのオーストリアの行政機関、運輸局、ASFiNAG、コンサルタント会社、学術団体、建設会社から構成され、道路・鉄道建設にかかわる技術規格を制定する際の評議会として機能している。常務委員会と諮問会議が、FSVの活動を監督し、事務総長がウィーンの本部を管理している。70程度のワークグループと委員会が、道路や鉄道に関する広範囲の項目について、技術指針、作業指示書や研究報告書を作成している。図47に、規格の制定や改訂の作業工程について、FSV規格の制定過程を例にフローチャートで示す。

FSVは、計画、建設から維持管理に関する指針をシリーズで刊行している。そのシリーズの中に、コンクリート舗装に関する規格(RVS 8S.06.32)が、FSVのコンクリート舗装WGにより制定および改訂されている。

ベルギー

ベルギー政府は、セメント産業のセメント・コンクリート材料の調査研究を監督するCRICを1960年に設立した。ベルギーのセメント産業、学術、企業、共同体および政府機関の代表が、CRICの管理取締会議において関連する全ての調査を監督する。CRICの調査項目のうち、コンクリート舗装に関連するものを以下に示す。

  • コンクリートの環境適合性
  • 化学的作用環境下でのコンクリートの耐久性
  • アルカリ・シリカ反応の防止
  • CEMⅢセメントとAE剤との相性
  • 混和材の最適な利用
  • フィラーおよび混和材の若材齢強度への影響

CRICのいくつかの調査は、ベルギーの3つのセメント会社が加盟するFEBELCEMが後援している。FEBELCEMも、独自に研究の奨励や調査、開発を実施している。

ベルギーには、およそ12の大きなコンクリート舗装施工業者があるが、1つか2つの業者はアスファルト舗装を主としている。施工業者は個社で訓練を行い、行政や産業が施工のトレーニングを提供することはない。

オランダ

1972年、オランダ運輸省とオランダ道路建設協会は、道路構造物の標準仕様書を制定する財団法人を設置した。活動の内容が、仕様書の策定だけでなく調査にも拡大したため、1987年に土木交通工学にかかわる調査や標準化をすすめる財団法人として組織を再編し、CROWと呼ばれている。

CROWは、社会基盤施設、交通や公共空間の、オランダ国立の情報および技術のプラットフォームである。非営利組織であり、開発、計画、設計、施工、管理やメンテナンスなどの指針を制定し普及させ、適切に運用できるように管理している。CROWのメンバーは、国家および地方行政や地方公共団体、水管理委員会、コンサルタント会社、建設会社、材料メーカー、交通機関、公共交通会社、学術機関などである。CROWは、会員による助成金や研究助成金、規格仕様書の販売による利益により運営している。

CROWの活動は、7つに区分され、社会基盤施設、契約標準化、代替契約形式、施工管理、公共空間、移動性/運輸性および交通工学である。各活動において幹事委員会があり、傘下のワーキンググループが、ガイドラインの策定や特記事項の推奨、情報の普及を、コンクリート舗装に関係するオランダの各機関へ行っている。さらに技術的情報の発信を行うため、月刊誌「Wegen」の出版や、道路会議、講習会およびトレーニングコースを毎年開催し数千もの人が参加している。CROWは、技術に関する書物、ジャーナルやレポート、会議資料を保管する図書館を運営しており、この図書館は公開されている。いくつかのCROWの出版物は、CROWのWEBサイトから入手することができる。

オランダの9つのセメント会社は、コンクリートの推進と公務のため、2007年にセメント協会の設立を計画し、300万ドルの予算を計上した。経費は、セメントのシェアトン数に応じて、各セメント会社の負担している。セメント協会は、小規模で、常勤の職員はたった7人で、業務のほとんどを外注している。各会社が自社の研究所を持っていることから、セメント協会が研究所を持つことはおそらく無いだろう。

オランダには約6つのコンクリート舗装の施工会社があるが、ほとんどの会社がアスファルトの施工も請け負う。コンクリート舗装の施工機械は共用しているが、アスファルトプラントは独自のものを所有している。実務向けの施工訓練は、職務内で実施されているが、コンクリート舗装技術のトレーニングコースが、コンサルタントや教育機関によって、請負業者や行政職員向けに実施されている。

イギリス

英国において交通に関する調査を実施する中心的な組織は、TRLである。1936年に国立の研究所として設立され、1990年に分離し独立組織となった。組織は4つの大きな部門に分かれ、最も大きな社会基盤・環境部門は、およそ140人の職員がいる。その他の部門は、自動車の安全、公共交通、資源管理や持続可能な開発など、広範囲な話題について調査している。TRLは、欧州において最も古く、最も大きな舗装の試験機関である。

TRLは、欧州の11の他国にある道路研究所とともに、FEHRLに参画している。FEHRLは、欧州長寿命舗装グループ(ELLPAG)と呼ぶ共同体から始まった。ELLPAGの目的は、経済性と持続可能性を考慮したうえで、長寿命舗装の設計、調査や維持管理を実際に実施するために、新しいアイデアを創造し発展させるフォーラムを提供する事である。ELLPAGは、長寿命舗装についての情報の交換を促し、この分野での調査を協調させ、長寿命舗装の幅広い利用を推進することも目的としている。ELLPAGの最初の特定課題は、欧州での長寿命舗装の設計仕様や維持管理の現状を検討する事であった。コンクリート舗装の設計および維持管理についても同様の検討が行われる。ELLPAGの長期目標は、欧州で一般的な舗装種別の全てを対象に、長寿命舗装の設計や維持管理に関する最適なガイドラインを、使い勝手の良い形で作成する事である。

英国のコンクリート舗装業界の代表は、1991年設立のBritpaveである。会員は、施工業者、コンサルティング技術者、材料供給者と学識者である。Britpaveは、道路、空港、鉄道、地盤改良、持続可能な開発や専門応用などの課題をタスクグループで検討している。

イギリスにおいて、コンクリート舗装に対する一般人やエンジニアのイメージは良くない。そのため、コンクリート舗装の研究者や専門家が少なく、また、コンクリート舗装を請負う業者は、技術者の雇用を維持していくことに苦慮している。イギリスのコンクリート舗装の状況を調査団に説明してくれた舗装の専門家は、イギリスにおいてはコンクリート舗装のイメージや経済性および技術的優位性を改善するため、以下の研究が必要であると認識している。

  • コンクリート舗装のメンテナンスの実施目安や補修方法の選定について、最新情報の出版と普及を行う。
  • コンクリート舗装のメンテナンスのトレーニングプログラムを開発する。
  • 供用年数が不特定なコンクリート舗装に、コンクリート舗装でオーバーレイする際、交通レベルに応じた適切な版厚を設定する概念を開発する。
  • 高速道路機関への導入を想定した、コンクリート舗装にかかる全コストを算出するモデルの開発と統合を行う。
  • ネットワークレベルやプロジェクトレベルでのモニタリングを実施し、コンクリート舗装の状況を評価する技術を開発する。
  • 特定のCRCPについてモニタリングを実施し、CRCPの性能とメンテナンスの必要性について情報を蓄積する。
  • コンクリート舗装やアスファルトオーバーレイを行ったコンクリート舗装について、理論的モデルを適切に取り入れた新しい設計手法を開発する。
  • コンクリート舗装のメンテナンスをコンクリートのメンテナンスとして追究する。

欧州連合


図48 ナノセムコンソーシアムの産学連携
FHWA-PL-07-027,p.46

調査団は、セメント材料のナノ技術研究に関する欧州の共同イニシアチブであるナノセムについて、スイスのローザンヌ工科大学のKaren Scrivener教授より説明をうけた。ナノセムは、学術機関とセメント産業の30以上の団体による協力関係(図48参照)であり、セメント材料のマクロな性能へ影響する、ナノ・ミクロスケールの現象について基礎研究を、研究機関や教育機関をまとめるコンソーシアムである。

ナノ技術は、原子、分子、高分子レベルであり、1から100nmのスケール(nmは、10億分の1m、人間の髪の毛の10万分の1の薄さ)での調査、研究である。ナノ技術は、多くの国々の幅広い分野で研究されている。現在では、医療分野においてナノ技術の応用が主要となっている。

ナノセムコンソーシアムでは、セメント材料に係る4つの主要なプロジェクトがあり、以下のとおりである。

  • C-S-Hやその他の水和物群:(ポルトランド)セメント系組織での相構成を予測するための熱力学的物性を測定する。
  • セメントペースト中の水の相互作用とミクロスケールの移動現象との関係の磁気共鳴分析法によるナノスケール解析:陽子を使用した非破壊試験で、長さスケールの範囲に沿って空隙水の状態を探査する。
  • 混和剤とアルミネート相との相互作用:水和初期における高性能AE減水剤とアルミネート相との化合物の構造をキャラクタリゼーションする。
  • 混合セメントの水和:混合セメント中のクリンカーと混合材の反応度を個別に計測する手法の開発。

セメント材料におけるナノ技術の開発により、セメントモルタルの耐久性やアルカリシリカ反応、セメントの水和や圧縮強度への温度の影響、未水和セメント中の相の状態、C-S-Hの構造やセメントの微細構造など、現象をより理解して、より定量的な評価が可能となることが期待される。

米国において、ナノ技術の研究開発による可能性は、国立ナノ技術イニシアチブ(www.nano.gov)によって探究されている。米国運輸省は、このイニシアチブに参加する21の連邦政府機関のひとつである。