セメント産業の概要


  日本のセメント産業の本格的な始動は1875(明治8)年にさかのぼります。以来150年、ビルやダム、トンネル、橋など、さまざまな社会基盤を整備するための基礎素材産業として、日本の繁栄に大きな役割を果たしてきました。
  その品質や製造技術、労働生産性、環境技術は、絶え間ない技術開発の結果、世界のトップクラスに君臨するとともに、近年では廃棄物・副産物等の有効活用により、社会の動・静脈の両面で貢献する産業として、さらなる活躍が期待されています。

  ここでは、セメント産業の特徴からその製造方法、セメント各社の取り組みに至るまで、わが国のセメント産業の概要をご紹介していきます。

セメント産業の概要

  セメント工場は北海道から沖縄まで全国に分布していますが、特に主原料の石灰石資源が豊富な北九州地区、山口県と国内最大の消費地を抱える関東地区に多く立地しています。
  2024年4月1日現在、企業数16社、28工場があり、クリンカ(セメントの中間製品)生産能力は49,943千t/年です。

セメント産業の特徴

セメント工場

  セメント産業は典型的な装置産業です。わが国最大の敷地面積を持つセメント工場は68万m2、東京ドームが15個も入る計算となります。ここにセメントを製造するためのすべての設備が配置されています。

  原料や燃料を受け入れるサイロやストックヤード。焼成設備の予熱機タワーと回転窯(以下キルン)。タワーの高さは約80m。回転窯は直径5m~6m、長さは100mに及び、工場の中でもひときわ威容を誇る巨大な設備です。完成したセメントを保管するサイロ群とタンカー・トラックなどの出荷設備。こうしたセメント工場が日本全国に28ヶ所立地しています。

全国のセメント工場めぐり

ニッポン・セメント工場探訪

 月刊誌「セメント・コンクリート」で2014年から2016年に連載されたシリーズ「ニッポン・セメント工場探訪」を掲載しています。
 *注 リンク先記事の会社名は掲載当時のものです。

北海道

社 名
工 場 名
所 在 地
日鉄セメント(株)
室 蘭
室蘭市仲町64
太平洋セメント(株)
上 磯
北海道北斗市谷好1-151

東北

社 名
工 場 名
所 在 地
UBE三菱セメント(株)
青 森
青森県下北郡東通村大字尻屋字八峠1
八戸セメント(株)
八 戸
青森県八戸市大字新井田字下鷹待場7-1
太平洋セメント(株)
大 船 渡
岩手県大船渡市赤崎町字跡浜21-6
UBE三菱セメント(株)
岩 手
岩手県一関市東山町長坂字羽根堀50

関東一区

社 名
工 場 名
所 在 地
太平洋セメント(株)
熊 谷
埼玉県熊谷市大字三ヶ尻5310
UBE三菱セメント(株)
横 瀬
埼玉県秩父郡横瀬町大字横瀬2270
太平洋セメント(株)
埼 玉
埼玉県日高市原宿721
(株)デイ・シイ
川 崎
川崎市川崎区浅野町1-1

関東二区

社 名
工 場 名
所 在 地
日立セメント(株)
日 立
茨城県日立市平和町2-1-1
住友大阪セメント(株)
栃 木
栃木県佐野市築地町715

北陸

社 名
工 場 名
所 在 地
明星セメント(株)
糸 魚 川
新潟県糸魚川市上刈7-1-1
デンカ (株)
青 海
新潟県糸魚川市大字青海2209
敦賀セメント(株)
敦 賀
福井県敦賀市泉2-6-1

東海

社 名
工 場 名
所 在 地
住友大阪セメント(株)
岐 阜
岐阜県本巣市山口11
太平洋セメント(株)
藤 原
三重県いなべ市藤原町東禅寺1361-1

近畿

社 名
工 場 名
所 在 地
住友大阪セメント(株)
赤 穂
兵庫県赤穂市折方1513

四国

社 名
工 場 名
所 在 地
住友大阪セメント(株)
高 知
高知県須崎市押岡123

中国

社 名
工 場 名
所 在 地
(株)トクヤマ
南 陽
山口県周南市御影町1-1
東ソー(株)
南 陽
山口県周南市開成町4560
UBE三菱セメント(株)
宇 部
山口県宇部市大字小串1978-2
UBE三菱セメント(株)
伊 佐
山口県美祢市伊佐町伊佐4768

九州

社 名
工 場 名
所 在 地
日鉄高炉セメント(株)
本社工場
北九州市小倉北区西港町16
UBE三菱セメント(株)
九 州
福岡県京都郡苅田町松原町12
UBE三菱セメント(株)
苅 田
福岡県京都郡苅田町長浜町7
苅田セメント(株)
苅 田
福岡県京都郡苅田町長浜町10
麻生セメント(株)
田 川
福岡県田川市大字弓削田2877
太平洋セメント(株)
大 分
大分県津久見市合ノ元町2-1

沖縄

社 名
工 場 名
所 在 地
琉球セメント(株)
屋 部
沖縄県名護市安和1008

番外編ほか

社 名
所 在 地
秩父太平洋セメント(株) 埼玉県秩父市大野原1800
市原エコセメント(株) 千葉県市原市八幡海岸通1-8
山陽白色セメント(株) 広島県三原市糸崎南1-2-1

『Dream Factory21世紀/循環型社会の未来を支えるセメント工場』(月刊誌セメント・コンクリート、2009年)より

セメントの製造方法

セメントクリンカ

  主原料である石灰石をはじめ、粘土、珪石、鉄さいなどを調合し予熱機から巨大な回転窯に投入し、高温焼成した後、空気で急冷するとセメントクリンカと呼ばれる1cm程度の火山岩のような黒い塊になります。

セメント

  これをさらに粉砕し、せっこうを加えることでセメントが完成するわけですが、主原料の石灰石は100%国内調達されており、こうした工業製品は日本では稀です。また、キルン内の温度は最高1,450℃にも達することから、他産業から排出される廃棄物や副産物を原料や熱エネルギーの一部として取り込むことが可能で、今後も利用拡大を図っているところであります。

セメントの販売形態

  出来上がったセメントの78%(除輸出用クリンカ)が汎用性のあるポルトランドセメント、それ以外が混合セメントやエコセメント(都市ごみ焼却灰、汚泥等を主原料にしたセメント)で、何れもJIS規格に定められており、製造会社の違いによる製品の差別化はみられません。重量物であるがゆえに運賃負担力が弱く、全体の83%が国内で消費されています。

生コンクリート製造プラント

  販売先の最終ユーザーは建設部門ですが、セメント自体が中間建設資材であるためにコンクリートという最終製品になるためには、生コンクリート製造業という業態にその殆ど(71%)を依存しなければなりません。生コンクリートはナマモノであるため、日本全国に3,049の生コンクリート工場を配して実際の工事現場と直結しています。

セメントの流通 ~西から東へ流れるセメント

中継基地

  セメントは西から東へ流れると言われます。これは主原料である石灰石が中国や九州に偏在するためセメント工場がこの地域に集中する一方で、消費地は近畿や東海、関東といった大都市が中心であるためです。

  この流れを効率よく進めるため、セメント工場から全国にくまなく配備されている中継基地(サービス・ステーション(以下SS))にタンカーやトラックで一次輸送し、その後、SSからトラックで生コンクリート工場やコンクリート製品工場などのユーザーに二次輸送しているのが一般的です。

  こうした物流に対して、商流はセメント会社の販売店から生コンクリート会社やコンクリート製品会社に販売されるのが主流で、固定的なルートとなっています。販売店の役割は、ユーザーの情報収集や集金、与信管理、価格交渉などですが、セメント会社が最も期待するのは販売力です。全国で1,000社以上がこうした事業に携わっているとみられています。

セメントは西から東へ流れる

タンカー

トラック

セメントの需給

※図をクリックすると拡大します。

  2023年度について、セメント国内需要(輸入を含む)は34,577千t、前年比92.7%となり、5年連続でマイナスとなりました。慢性的な人手不足を背景とした工期の長期化や建設コストの上昇などにより、セメント国内需要の減少が続いています。2023年度は官需に加え、民需も3年ぶりに前年比マイナスとなりました。これまで、厳しい状況ながらも民間工事のウエイトが大きい都市部では一定の需要がありましたが、建設作業員不足に加え建設資材などの高騰による設計変更や建設計画の見直しで再開発工事や新規工事で遅れが生じています。また、上期は大雨や台風などの天候不良、夏の記録的な猛暑も影響しました。
  輸出は、6,855千t、前年比84.2%と2年連続のマイナスとなりました。足元では高騰していたエネルギー価格が落ち着き、円安の影響もあって輸出環境は整ってきていますが、主要マーケットであるアジアは供給過剰の状態にあります。
  こうしたことから、生産は47,177千t、前年比91.6%とマイナスとなりました。

  セメントの国内需要は、バブル経済終盤の1990年度に86,286千tとなりピークを記録しましたが、その後は長期に亙り縮小傾向が続いています。とりわけ2007年以降は改正建築基準法施行(2007年6月)による混乱の長期化、リーマンショック(2008年9月)による世界的景気後退に伴う民間建設工事の減少、公共工事補正予算の付け替え(2009年9月)、2010年度公共事業予算の大幅削減など、次々と逆風に見舞われ2010年度まで減少しました。その後、東日本大震災の復興需要と国土強靭化政策の下、2011年度以降は3年連続して上昇局面に転じました。しかし、その後は建設労働者の人手不足等により低調に推移し、2023年度は34,577千tと、2019年度以降5年連続のマイナスとなりました。これは57年前の1966年度よりも低く、ピーク時から比較すると40%のレベルです。生産も同様に1996年度99,267千tのピーク後減少傾向をたどり、2023年度47,177千tは同時期の48%の水準にまで縮小しています。

構造改善とセメント各社の再編

  セメント産業の歴史は、不況カルテルと構造改善、そして再編の歴史ともいわれています。3度にわたる不況カルテルの締結(生産限度量の設定-第一次:1975年~1976年、第二次:1977年、第三次:1983年)と、2度の構造改善事業(1984年~1986年の特定産業構造改善臨時措置法と1987年~1991年の産業構造転換円滑化臨時措置法の適用による共同設備廃棄や共同事業会社設立)、そして大型合併がこれにあたります。
  このようにその時代の情勢に対応しながら、セメント産業の構造そのものも変化させてきました。現在では16製造会社と9販売ブランド体制となっています。

大型合併による再編劇

1984 5つの共同販売会社設立
●中央セメント
小野田セメント、新日鐵化学、東洋曹達、三井鉱山、日立セメント
●大日本セメント
日本セメント、大阪セメント、第一セメント、明星セメント
●不二セメント
三菱鉱業セメント、徳山曹達、東北開発(1985年に参加)
●アンデスセメント
住友セメント、麻生セメント、電気化学工業、日鐵セメント、八戸セメント、東洋セメント、苅田セメント
●ユニオンセメント
宇部興産、秩父セメント、敦賀セメント、琉球セメント

*会社名は当時のものを表記した

1987 東洋曹達が東ソーに社名変更
1990 三菱鉱業セメントと三菱金属が合併し三菱マテリアルが発足
1991 中央セメント、ユニオンセメント解散
三菱マテリアルと東北開発が合併
1994 大日本セメント、アンデスセメント、不二セメント解散
小野田セメントと秩父セメントが合併し秩父小野田が発足
住友セメントと大阪セメントが合併し住友大阪セメントが発足
徳山曹達がトクヤマに社名変更
1998 宇部興産と三菱マテリアルが販売会社を設立し宇部三菱セメントが発足
秩父小野田と日本セメントが合併し太平洋セメントが発足
2003 第一セメントが中央商事と合併しデイ・シイが発足
2004 三井鉱山がセメント事業から撤退
麻生セメントが仏ラファージュセメントと資本提携し麻生ラファージュセメントに社名変更
2010 秩父太平洋セメントがセメント生産を停止しセメント協会退会
2012 日鐵セメントが日鉄住金セメント、また、新日鐵高炉セメントが日鉄住金高炉セメントに社名変更
親会社の新日本製鐵が住友金属工業と合併し、新日鉄住金となったことによる措置
2013 麻生ラファージュセメントが麻生セメントに社名変更。資本提携している仏ラファージュ社の減資に伴う措置
2015 電気化学工業がデンカに社名変更
2016 デイ・シイ社が太平洋セメントの完全子会社になり、東証第一部の上場廃止
2019 日立社が日立工場でのクリンカ生産を停止し、太平洋社にクリンカ及びセメントの生産を委託

日鉄住金セメントが日鉄セメントに、日鉄住金高炉セメントが日鉄高炉セメントに社名変更、親会社の新日鉄住金が日本製鉄となったことによる措置
2022 三菱マテリアルと宇部興産のセメント並びに関連事業を継承、宇部三菱セメントを吸収合併して、UBE三菱セメントが発足
2023 デンカはセメント販売事業等について子会社のTDセメント販売株式会社を新設、太平洋セメントに全株式を譲渡し「太平洋セメント」のブランド名で販売を開始
また、2025年上期を目途にセメント生産を終了し、石灰石の自社採掘及びセメント製造事業から完全撤退する予定

16製造会社

八戸セメント 日鉄高炉セメント 日鉄セメント 東ソー トクヤマ
琉球セメント 苅田セメント 太平洋セメント 敦賀セメント デイ・シイ
デンカ 麻生セメント UBE三菱セメント 明星セメント 日立セメント
住友大阪セメント

9販売ブランド

日鉄高炉セメント 日鉄セメント トクヤマ 琉球セメント 太平洋セメント
麻生セメント UBE三菱セメント 日立セメント 住友大阪セメント

(イロハ順)


セメント各社の取組

セメント各社のコスト削減の取り組み

  セメントの国内市場はバブル経済終盤の1990年度以降、長期的に縮小傾向が続きましたが、最近では下げ止まりもみられました。しかし、この3年ほどはコロナ禍にあって、世界的に社会・経済活動がストップしたことから我が国の建設活動にも停滞がみられ、セメント国内需要は半世紀以上前の水準に逆戻りしています。この間、セメント各社が常に志向していることは、販売価格の回復と徹底したコスト削減です。

  それでは、コスト削減の事例をいくつか紹介します。

廃棄物・副産物の活用

廃プラスチック

  セメントの製造過程において、その設備や焼成技術を活用することで、他産業等から多量の廃棄物・副産物を受け入れることが可能です。汚泥、スラッジ、建設発生土などは原料代替として、木くず、廃プラスチック、廃タイヤなどは熱エネルギー源として、高炉スラグ、石炭灰などは原料や混合材として使用しています。2023年度でセメント1t製造するのに480㎏の廃棄物・副産物を活用した計算になり、この中には処理費用を受け取っているものもあることから製造コストの低減に役立っています。

物流の合理化

物流設備の推移

(注)1.数字は各年4月1日現在の数値
2.SS(サービスステーション):工場外出荷設備

  セメントは重量物であるが故に運賃負担力が弱く、物流コストは製造コストに次ぐ第2のコストといわれ、これを最小限に抑えることが大きな課題となっています。SSの統廃合と共同利用、タンカーやトラックなど輸送設備の大型化と削減、交錯輸送の削減、交換出荷の促進などが取り組まれており、成果を挙げています。

物流図



商流の合理化

  物流コストと併せて、商流分野の改革にも着手しています。セメント流通小史を振り返りながらみていきましょう。

  戦前、セメントは希少で高価なものでした。当時のセメント荷姿は50kg袋で、セメント会社の販売店は1都道府県1販売店を原則としていました。その地域の名士などがこれに従事し、セメント販売店になることは名誉であると言われてもいました。販売店は自らセメント会社からセメントを仕入れ、販売しており、物流と商流が一致していました。
  戦後、建設ブームを背景にしてセメントを大量輸送する必要から、生コンクリート産業が興ると、セメント物流の荷姿はバラにシフトし、中継基地としてのSSやタンカー、貨車、トラックなどの輸送機関も増強されていきます。同時にセメント販売店も急増し、販売店は実際にセメント会社からセメントを仕入れることはなく、ユーザーとの口利きに特化することで、代金回収や情報収集、与信管理などが主業務になる販売店も増えてきました。販売店の売上はセメント会社からの手数料で、ユーザーまでの運賃込みの持込渡し価格に対して6%程度の口銭率が一般的でした。

  1995年よりセメント各社は流通合理化の一環で販売店の機能に応じた口銭率を設定するようになりました。また、2000年よりセメント大手社で従来の持込渡しからSS渡しでの取引を導入する動きが始まり、販売店にはSSまでの価格に対し口銭を支払うこととなりました。
  これと同時にセメント各社はセメント営業の体制そのものの見直しも進めてきました。地方の営業所の統廃合によって人員の再配置を行うなど、上記と併せてトータルの流通コストの削減を図り成果を挙げてきています。

  2007年になるとセメント協会は報告書『セメント商流・物流問題に関する提言~セメントメーカー・販売店間の個別取引契約の整備について~』を取りまとめました。この主旨はセメント会社とセメント販売店との個別取引契約の重要性を説き、契約を結ぶ際には、全て文書で、出荷開始前に、有効期限を定めるとし、具体的な標準モデル契約書を会員各社に示しました。セメント各社はこれを参考に、個別取引契約の導入を図り、商流の近代化を図りました。


セメントの商流プロセス



適正稼働率の維持

  セメント産業は典型的な装置産業ですので、固定費の中心となる設備の適正な稼働が重要となります。2024年4月1日現在で28工場49キルンが在籍しており、年産能力は49,943千tとなっていますが、このところ国内販売、輸出ともに低調で、2023年度のキルン稼働率は78.9%となっています。



安全衛生の取組み

第73回(2024年度)セメント安全衛生大会研究発表会は下記よりPDFファイルをダウンロードできます。


ダウンロード(PDF:8.7MB)